大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)647号 判決 1980年11月21日
控訴人 瀬川甚作
右訴訟代理人弁護士 南逸郎
右同 佐藤健二
被控訴人 大阪市信用保証協会
右代表者理事 阿部宰
右訴訟代理人弁護士 竹西輝雄
右同 岡本宏
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、控訴人
「一、原判決を取消す。二、被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙目録記載の家屋につき、大阪法務局天王寺出張所においてなされている、(イ)昭和四八年八月七日受付第二四七八三号の根抵当権設定登記、(ロ)同日受付第二四、七八四号の所有権移転請求権仮登記、の各抹消登記手続をせよ。三、訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」
との判決。
二、被控訴人
主文同旨の判決。
第二、当事者の主張
一、原判決の引用
当事者の主張、証拠関係は以下のとおり訂正、附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。原判決二枚目表最終行の「印鑑」を「実印」と、同三枚目表七行目及び一一行目の「崇太」を「崇大」と各訂正する。
二、控訴人の主張
(一)仮りに、被控訴人主張の根抵当権設定契約及び代物弁済予約が成立したとしても、その被担保債権である被控訴人の控訴人に対する求償権は被控訴人が協和銀行に対し七洋アイワ株式会社の残債務金一七九万一、五六九円を支払って控訴人に対し求償権を取得したと主張する昭和四九年一一月二一日から商法五二二条所定の商行為によって生じた保証債務である右求償権は商事債権として、五年を経過した昭和五四年一一月二一日に時効により消滅しているので、控訴人は本訴において右時効を援用する。
(二)被控訴人の後掲三(二)(三)の主張を争う。
三、被控訴人
(一)控訴人の右主張の事実関係は認めるが、その余は争う。
(二) 控訴人は昭和五〇年に被控訴人から提起された本訴において求償権の存在を主張、立証して争っているのであるから、これによって消滅時効は中断された。
(三)被控訴人は理由のない不当な本訴を提起し長年にわたり和解延期を求めながら、時効期間の経過を待って急に消滅時効を援用したものであって、これは信義則に反し、権利の濫用として許されない。
第三、証拠<省略>
理由
一、当裁判所も原判決と同様控訴人の請求を棄却すべきものと判断する。その理由は以下のとおり訂正、附加するほか原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。
原判決三枚目裏六行目全部を「第一号証の一、二(官公署作成部分はいずれも成立に争いがない)、」と訂正し、同七行目の「原告名下」から一一行目の「乙第七号証」までを「原告作成部分は、成立に争いのない乙第八号証及び証人吉井勇の証言によって原告の署名部分がその自署によることが認められ、かつその名下の印影が原告の印章によるものであることが当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推認でき、その余の作成部分については右証言、当審における控訴人本人尋問の結果(一部)、と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七号証、」と訂正する。
右認定に反する当審証人隅防靖子の証言、当審における控訴人本人尋問の結果の各一部は原判決挙示の各証拠に照らしにわかに措信できないし、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。
二、被控訴人が協和銀行に対し七洋アイワ株式会社の残債務金一七九万一、五六九円を支払って控訴人に対し求償権を取得したと主張する昭和四九年一一月二一日から商事債権の時効期間五年が昭和五四年一一月二一日経過したことは当事者間に争いがない。
しかしながら、本件訴訟記録及び弁論の全趣旨に照らすと、控訴人が本件建物の所有権に基づき、被控訴人に対し根抵当権設定登記、所有権移転請求権仮登記の抹消登記請求の本訴を提起し、被控訴人は右各登記の登記原因である根抵当権設定契約、代物弁済予約の存在、存びその被担保債権として右求償権の存在を抗弁として、原審第二回口頭弁論期日(同年八月四日)において乙第四号証の提出をした後、原審第三回口頭弁論期日(昭和五〇年一〇月一三日)における弁論をもって主張していることが認められ、他にこれを覆えすに足る証拠がない。
右の被担保債権である求償権の主張(抗弁)は本訴の請求自体とは訴訟物を異にするので消滅時効の中断事由である民法一四七条一号の「請求」そのものには当らないが、裁判上の明確な権利主張として請求の一種である同法一五三条の「催告」ないしこれに準ずる裁判上の催告に該当するものであって、右抗弁が、被担保債権の債務者が原告である本件のような訴訟に提出された場合には、右抗弁中には、登記原因の単なる被担保債権存在の陳述に止まらず、同債権自体の権利主張の意思の表示をも認めうるから当該債権(右求償権)について消滅時効の中断の効力があり、かつ、その効力は右抗弁の撤回されない限り、その訴訟係属中存続するものと解すべきである(最判(大法廷)昭三八・一〇・三〇民集一七巻九号一二五二頁参照)。
したがって、被控訴人の前示求償権の主張によっておそくとも原審第三回口頭弁論期日(昭和五〇年一〇月一三日以降消滅時効が中断しているというべきであるから、被控訴人の時効中断の主張は理由があり、控訴人主張の右求償権の時効消滅の主張は採用できない。
三、よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であって、本件控訴は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村上博巳 裁判官 吉川義春 藤井一男)